機密性高いM&A 経営責任市場は注視
22日に逮捕された野村証券の社員らによるインサイダー取引事件は、経済界に衝撃を与えた。世界的な金融市場の混乱が長引く中で、証券最大手関係者が不正に利益を得ていたことに、投資家らの失望や怒りは大きい。野村証券は「個人的な行為」と説明するが、企業の管理責任も重い。早急な実態の解明と投資家らへの十分な説明が求められる。(山田滋、有光裕)
◆怒りと失望
野村証券は22日夜、記者会見を開き、渡部賢一社長が「市場をゆがめた社員が出たことは、本当に申し訳ない。内部管理を見直し、再発防止に努めたい」と陳謝した。
事件への会社の組織的な関与は否定し、「現時点で知りうる限りは社員の個人的な行為だ」と強調した。
しかし、不正を防げなかった管理体制への批判はまぬかれない。青山学院大の北川哲雄教授は「個人の問題として片づけず、会社全体で責任を痛感し、対処すべきだ」と指摘する。
22日午前には渡辺金融相が閣議後の記者会見で、「大手証券会社の社員がインサイダー取引を行うのは言語道断だ。こうした犯罪には厳しく対処する」と強調した。経済同友会の桜井正光代表幹事も同日の記者会見で「非常に遺憾だ。経営の脇が甘いと言わないといけない」と批判した。
◆悪質さ
今回の事件は、市場の公正さを守るべき証券会社の最大手で、企業の合併・買収(M&A)に関する機密情報を担当社員が悪用していたという点で、これまでのインサイダー事件に比べはるかに悪質といえる。
事件の舞台となった企業情報部は、M&Aの仲介や助言を行う部門だ。世界的なM&Aの増加で、証券会社にとって成長分野でもある。中でも野村は大型案件を相次いで手がけ、国内他社をリードしている。
中央大の野村修也教授(会社法)は「企業の内部情報が集中し、本来なら最も不正を防がなければいけない部署での不正で、証券業界全体が受けたダメージは大きい」と指摘する。
野村証券の親会社である野村ホールディングス株の22日の終値は、前日比66円(3・87%)安の1639円となった。証券各社の株価も軒並み大幅に値下がりした。
◆経営責任
渡部社長(野村ホールディングス社長を兼務)は4月1日に就任したばかりだ。さっそく重い課題を背負うことになった。
野村は1991年に損失補てん問題、97年には総会屋への利益供与事件を起こし、いずれもトップが引責辞任した。
その後、野村証券は法令順守を看板に掲げてきた。しかし、築いてきた信頼は崩れ去った。今回も、経営陣の責任を追及する声が高まる可能性は十分にある。
渡部社長は記者会見で、経営責任について「事実関係の確認を待って考えたい」と答えるにとどめた。今後、どのように責任を明確にしていくのか、市場は注視している。
(2008年4月23日 読売新聞)
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